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2013.07.12 Friday
「大切な人を失った子どもたち〜これからのグリーフケア〜」講演会レポート
 もし、私たちが、大切な人を失った子どもを目の前にしたら、一体何ができるのでしょうか。2013年6月29日、大阪市で開催された「大切な人を失った子どもたち〜これからのグリーフケア〜」と題された講演会に参加してきました。講師は、30年以上にわたり、死別・喪失体験やトラウマ体験をした子どものケアに取り組んできたシンシア・ホワイト氏。作家、こどもの本の専門店クレヨンハウス主宰でもある落合恵子氏。元あしなが育英会レインボーハウスチーフディレクターで、現在子どもグリーフサポートステーション代表の西田正弘氏。ぐりーふサポートハウス副理事長で、家族を自死で亡くした人へのサポートを大阪府で行っている佐藤まどか氏でした。最初に講師それぞれに講演があり、最後にシンシア氏、落合氏、西田氏の対談の場が設けられました。



 講演の中で落合氏は「私たちが、きわめて個人的だと思っているかなりの部分は、実はシェア(共有)できることなんですね」と、おっしゃいました。その言葉通り、講師それぞれが自らの体験を元にグリーフケアについて語って下さいました。その中で、一部ではありますが、ご紹介させてもらいたいと思います。

 シンシア氏の講演のタイトルは「日本の将来のために:グリーフケアとトラウマ」でした。そして、コフィー・アナン氏(ガーナ出身の国連事務総長で、ノーベル平和賞を受賞者)の「知識は力です。情報は人びとに自由を与えます。教育は、どの社会においても、どの家庭においても、進歩の前提になります」という言葉から講演が始まりました。現場の経験をもとに、グリーフやトラウマの知識、情報を中心に話してくれました。


グリーフ(喪失)を乗り越えるというものではない
 
まず、シンシア氏は「喪失」について話してくれました。私自身改めて「喪失」とともに生きていくことについて考えさせられました。喪失を経験した直後の人にとっては、「喪失」とともに生きるという状態までには、長い時間を要することもあるかもしれません。
 「(ある人が喪失を体験したとして)時間が経つに従って、その変化に対して人は適応するようになってきて、喪失したということを自分のアイデンティティの中に取り込んでゆけるようになります。そして(喪失が)自分のライフストーリーの一部になるのです。すなわち、グリーフ自体が、自分の中の定義に組み込まれていく。従って、グリーフを乗り越えるというものではないのです。人はグリーフから学びます。そして出来れば、その経験を人のために使っていきたいと願うようになるのでしょう」。


子どもの語りを待つこと
 
また、シンシア氏はトラウマを経験した、あるいはグリーフを経験している子どもたちへのケアには、主たる目的として次の4つのことを挙げました。「安全であること」「ボランティアのスキルの習得」「意味を持たせること」「レジリエンス(逆境における回復力、弾力性)と社会的ネットワークづくり」です。その中でも特に「意味を持たせること」については「過去のトラウマの見方に意味を持たせ、将来を適応的な見方でとらえるよう発展させること」「将来への希望を取り戻すこと」「アート、遊び、映画、物語などの象徴的な手段を通して、物語を語らせ、意味を持たせること」が挙っていました。また、ここで注意したいことは、この「物語を語らせ」ということは、話をさせるように質問をするのではないということです。シンシア氏は「東北において『つなみ』など悲しい経験について、子ども達はわざわざ聞かれなくても何が起きたかを大人達に話し出します。ただ(大人から)聞かれた時は黙り込みます。そうなるとシャットダウンしてしまうのです。ヒーリング、癒しの過程において、無条件の愛情によって、レスポンスを聞くことが出来るのです」と伝えていました。

 シンシア氏の講演で、私は「喪失(グリーフ)」という言葉が、講演を聞く前よりもますます身近になったように感じました。そして、私自身、自分の「喪失」を少し見つめ返してみたいと思った時に、次の登壇者、落合氏の講演が始まりました。偶然にも、落合氏の話は、自身の幼少期の話、母親の看取りの話、と自らの「喪失」についてからスタートしました。


「自分のこころの声に耳を傾けること」から始まるグリーフケア
 
「悲しみと向かい合うためには、あるいは子どもの悲しみにーーどこまでかは分かりません。100%完璧にというのは、あり得ないのではないかなと思いますーー可能な限り寄り添うためには、まずは私たち自身が、自分の痛みとどこまで向かい合っているか、ということがとても大事なことではないのか、とずっと思っています。『誰かを大切にしなさい』という教育はこの国でもされていますが、その前に『自分を大切にしましょう』という問いかけは、どこまで浸透しているのか。『誰かの声に耳を傾けましょう』ということは大事なことですが、では自分の心の声に私たちはどれだけ、耳を傾けているでしょうか。そんなことを考えますと、子どもの悲しみと向かい合う、子どもの悲しみに寄り添う『グリーフケア』というのは、そのまま、大人が、自分自身の悲しみや痛みと向かい合う、そこからスタートしても決して遅くはないのではないでしょうか」。

30代に迎えた第二の誕生日
 
また、落合氏は参加者に「20代の人」、「30代の人」…と会場に投げかけ、それぞれに手を挙げてもらってからこんな話を始めました。「私は、30代が私の誕生日と思って生きてきました。子ども時代、10代、そして会社で勤めていた20代、私は私でありながら、私になりたいと思いながら、いつも私から遠ざかる私自身を見つけていない、そんな気がしています。30代で今まで勤めた会社を辞めて、ものを書くんだということと、東京、大阪にある子どもの本の専門店をスタートしたのが、私の第二の誕生日だと思っています」。
落合氏の言い切らずに余白を残すという伝え方、言葉を一つ一つ丁寧に紡ぎだすそのあり方に私は大変感動を覚えました。そして「第二の誕生日」という言葉ひとつをとったとしても、落合氏の「自分の生き方を丁寧に見つめる姿勢」が感じられました。また、落合氏は後半で、このような言葉を残されました。「人の強さとは、人が生きていく上の、切なさや、悲しさや、どうしようもなさや、同時に自分の中の弱さを知ってこそ初めて、人はもっと『しなやかな強さ』にたどり着けるのだと思う」。子どものグリーフケアに関わる時「私たち一人ひとりの生き方が問われている」そんな風に感じた落合氏の講演でした。


その人の持つ力を信じること
 
西田氏と佐藤氏の実践報告においては、それぞれの活動を通しての気づきや、今後の課題を示してくれました。
 まず、カウンセリングスペース「リヴ」の代表でもある佐藤氏はスタッフに求められる力として、次の6つを挙げました。「自分自身のことを知っておくこと」「その人の持つ力を信じること」「コントロールしないこと」「子どもから学ぶ姿勢」「正解がないことを理解しておく」「スタッフ間での信頼・仲間との支えあい」。その中で「その人の持つ力を信じること」について、もう少し触れたいと思います。
 「『この子達に、なんかしてあげなあかん』とか、『私がこの家族をなんとかせなあかん』ではなくて『この人たちの中にある力をどんな風に使えばうまくいくんかな』とか、その人が持っている力をどういかしてあげるかということを見るのが、必要な力だと思っています」。
リヴオンにおいて、私は「目の前の人が持っている力を信じること」を身を持って教えてもらっているように思います。自分の中の「こたえ」や「ちから」に私自身が気づくまで、問いかけてもらったり、隣で待ってもらったことに何度も何度も助けられました。「自分の中にある力を信じてもらうこと」は、自分が自分として生きていく力を育んでもらっているようにも感じます。そう考えると、人は違えど、場面は違えど、大切にしている何かの共通点があるような気持ちで講演を聞かせてもらいました。

 また、この講演会の主催者でもある西田氏は、最近のグリーフケアに関する調査なども交えつつ、今後のグリーフケアの課題について大きく分けて次のことを示してくれました。「『グリーフサポート』への社会的な理解を広める」「子どもに関わる人に、子どもの喪失体験、グリーフの理解を広める」「グリーフサポートに関わる人材を育てる」「医療、福祉、教育の専門家にも『グリーフサポート』の理解を」「『当事者の声』に耳をすます」「下方比較ではなく『ニーズ』にする力をつける」です。どれも容易なことではないかもしれません。対処しなければならない問題も多くあるかもしれません。しかし、そんな風に考えたとき、対談の最後にシンシア氏からこんな言葉が送られました。


ストーリーを分かち合うことは力を分かち合うこと

「皆さん一人ひとりが、ストーリーをもっていらっしゃると思います。皆さんが経験されたこと、そして、そこから学ばれたことが、みなさんのストーリーになっているはずです。そして、そのストーリーというのが皆さんの力、強みになっていると思います。そして、ストーリーを分かち合うということは、すなわち、その力、強さを分かち合うということだと思います。したがって、このサポートするということは、相手に力、強さを与え、分かち合っていくことになると思います。子どもたちが、絵本、童話から力をもらうように、みなさんのストーリーから、力を分かち合うことが出来るのだと思います」。

 子どもに関してだけではなく「グリーフケア」に関わることは容易なことではないと私は思います。しかし、誰しも、それぞれかけがえのないストーリーを持っていること、そしてそこには力があることを忘れずにおきたい、と思いました。「グリーフケア」そして「自分自身」を学ばせていただいた、この時間をリヴオンの「つどいば」「いのちの学校」など様々な場面でいかしていけたらと思います。(瓜)





| okaku-terumi | 講演会 | 16:16 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |